Lonely Lonely Lonely


明日から、仕事、きっついぞ。



そんなことを考えて、ほくそ笑んでいたら、



「あなたが、中山美久さん?」



翔さんは、自ら美久の元へ。



「は、はい」



「初めまして、藤川翔と申します。この度は、ご迷惑をおかけして……、その……、何と言ったらいいのか。とにかく、申し訳ございません」




「そんな、あなたは、なにも悪くないです。謝らないで下さい」




「いえ、身内のしでかしたことですから……。本当に、どうお詫びをすればよいのか……」




「お詫びなんて。お詫びだなんて……」




とうとう、涙声になってきた美久。



深く頭を下げる藤川翔に対して、




「やめて下さい!私が悪かったんです。気付かなかった私が」




「それは違う。一番悪いのは……おい、剛!」




腰をさすりながら、店を出ようとしていた剛を、彼は呼び止めた。



剛は、ピタリと足を止め、



「腰、痛めたんだ。知り合いの整体師に診てもらって来る。このままじゃ、明日から仕事できねー」



「逃げるのか」




「そうじゃねえって。今、理由を言っただろう?」




「だったら、ちゃんと詫びてからにしろ。彼女と、俺に。謝れよ!それに、ここにはいないけど、雪乃さんにもな」



「ああ、そうだ。言ってなかったけど、雪乃とは、別れたよ」



「えっ?なんだって?」



「離婚したんだよ!だから、俺は、晴れて独身になったんだ!」




「なんでそんな、大事なことを言わない?たったひとりの兄弟じゃないか!」




「お前、いつも忙しそうだから、遠慮してたんだよ……。雪乃とは、慰謝料と、今後養育費を支払うということで、円満に離婚出来たんだ。
新しい女を探したって、なんの問題もないだろう!」



「馬鹿か、お前は。だったら、ちゃんと自分の名を名乗れ!そもそも、俺はその事を確認するためにここへ来たんだ。

どうせ、美容師より医者のほうがモテると思ってるからなんだろ?お前そうやって、他に何人、騙してるんだ?」



黙りこむ剛。



弟にやり込められるなんて、情けない男。



「黙ってんじゃねえよ!テメエ」



翔さんの手が出そうになった時、



「待った待った。兄弟ゲンカは家でやってくれ!」



涼ちゃんが仲裁に入ってくれた。



「失礼しました。私、当店のオーナー、中山涼と申します。どうぞ、お座りになりませんか?テーブル席をご用意します。
剛さんも。もう腰、大丈夫でしょう?
しっかり立っていらっしゃる」
< 114 / 144 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop