Lonely Lonely Lonely
明日から、仕事、きっついぞ。
そんなことを考えて、ほくそ笑んでいたら、
「あなたが、中山美久さん?」
翔さんは、自ら美久の元へ。
「は、はい」
「初めまして、藤川翔と申します。この度は、ご迷惑をおかけして……、その……、何と言ったらいいのか。とにかく、申し訳ございません」
「そんな、あなたは、なにも悪くないです。謝らないで下さい」
「いえ、身内のしでかしたことですから……。本当に、どうお詫びをすればよいのか……」
「お詫びなんて。お詫びだなんて……」
とうとう、涙声になってきた美久。
深く頭を下げる藤川翔に対して、
「やめて下さい!私が悪かったんです。気付かなかった私が」
「それは違う。一番悪いのは……おい、剛!」
腰をさすりながら、店を出ようとしていた剛を、彼は呼び止めた。
剛は、ピタリと足を止め、
「腰、痛めたんだ。知り合いの整体師に診てもらって来る。このままじゃ、明日から仕事できねー」
「逃げるのか」
「そうじゃねえって。今、理由を言っただろう?」
「だったら、ちゃんと詫びてからにしろ。彼女と、俺に。謝れよ!それに、ここにはいないけど、雪乃さんにもな」
「ああ、そうだ。言ってなかったけど、雪乃とは、別れたよ」
「えっ?なんだって?」
「離婚したんだよ!だから、俺は、晴れて独身になったんだ!」
「なんでそんな、大事なことを言わない?たったひとりの兄弟じゃないか!」
「お前、いつも忙しそうだから、遠慮してたんだよ……。雪乃とは、慰謝料と、今後養育費を支払うということで、円満に離婚出来たんだ。
新しい女を探したって、なんの問題もないだろう!」
「馬鹿か、お前は。だったら、ちゃんと自分の名を名乗れ!そもそも、俺はその事を確認するためにここへ来たんだ。
どうせ、美容師より医者のほうがモテると思ってるからなんだろ?お前そうやって、他に何人、騙してるんだ?」
黙りこむ剛。
弟にやり込められるなんて、情けない男。
「黙ってんじゃねえよ!テメエ」
翔さんの手が出そうになった時、
「待った待った。兄弟ゲンカは家でやってくれ!」
涼ちゃんが仲裁に入ってくれた。
「失礼しました。私、当店のオーナー、中山涼と申します。どうぞ、お座りになりませんか?テーブル席をご用意します。
剛さんも。もう腰、大丈夫でしょう?
しっかり立っていらっしゃる」