Lonely Lonely Lonely
10・欲情
そのまま、半年近くが過ぎて、仕事もプライベートも順調で、比較的穏やかに過ごしていた頃。
仕事を終えて、店を出ると、すぐに、
「おい」
と声をかけられた。
振り返ると、腕組みをしている剛が立っていた。
「えっなに?いつからいたの?来るんなら連絡くれれば……」
「俺からの連絡、受けてくれたか?」
う~ん。たしかに。考えてしまうわ。
「メシ、食わないか?」
「ええ、お寿司なら」
「寿司~?勘弁してくれよ」
「こっちこそ、もう、やっすいスパゲティ屋に連れて行かれるのは勘弁」
「あそこ、うまいのになあ~」
「今日は、和食がいいの」
「和食……。よし、わかった。行こう」
マジ。ドケチな剛が、お寿司?
天変地異~!
しかし、着いた場所は……
「居酒屋?話が違うんだけど」
「いいから、入ってみろよ。お前が嫌う全国チェーンじゃないし、魚料理も上手い。もちろん、酒もな。ほら、なんでも好きなもん、食えよ」
仕方なく、メニューに目を通すと、
あら、私の大好きな、海ぶどう。
ゴーヤーチャンプル。ジーマミー豆腐、そしてもちろん、泡盛~。
「あっ泡盛が、あんなに!」
カウンター奥に並んだ泡盛の種類の多さに目が眩んだ。
「すごい、すごい。この店。言われてみれば、何か沖縄チックな内装よね。なんか、素敵!」
「だろ?お前の好みは、わかってるって。ここは沖縄料理、だけど、日本国内だから、和食ってことで、いいだろ?」
「いい、いい。ありがとう。じゃあ、とりあえず、オリオンビールから。かな」
私達は、「お疲れさま」と、グラスを合わせた。今日は、日曜日。
世間は休日気分でも、私達にとっては、かきいれ時。
そして剛は明日、月曜が定休日であり、私は火曜日だ。
疲れた~、と、
冷たいビールを喉に流し込む。
自然と、あーっという声が漏れ、思わず二人で笑った。
「なんか、オヤジみてえだな」
「中身は、オヤジでしょう?私達」
なんだか、先日の揉め事が、うそのように消え去っていく。
そんな錯覚に襲われた。