Lonely Lonely Lonely

「じゃあ、涼ちゃんのとこは、バイトなの?」


「はい。今は、週3ぐらいですね」


「でも、私が行く時、いつもいるよね」


「それは、素敵な偶然ということでしょう!さあ、立ち話もなんですから、中へ、どうぞ」


彼の誘い(いざない)によって、その扉は開かれた。目に飛び込んできたのは大勢の客!
わりと女性客もいるんだ。


そして、


「いらっしゃいませ~」


という男だらけのご挨拶。しかし、彼らが、水野誠の姿を確認すると、


「あっ、副店(長)。お疲れさまっす」


「お疲れさまっす」


ありとあらゆる店員が頭を下げるので、私はなんだか気分が良くなってきた。(まるで自分の店みたい)



そして店の奥の座敷の席に案内された。


「たまに宴会の予約も入るんですよ。そのときはここで、楽しんでもらっているんです」


へ~。ラーメン屋で宴会かー。考えもしなかったけど。


そんなことを思いつつメニューを見てみる。


ラーメン、餃子、チャーハン、麻婆豆腐、天津飯、その他いろいろいろいろ。


中華料理じゃん!って位。これなら宴会やりたくなるわ。
あとは味次第ね。


彼は座りながら、ふうっと息をついた。
そしてまた、さわやか笑顔を見せる。


「瑠璃子さん、何にします?おすすめは、野菜たっぷりのちゃんぽんですけど」


「ありがとう。でも私は、初めてのお店では一番シンプルなものがいいの。
醤油ラーメンと、半チャーハンと、それから……」


目で訴えてみた。


「はい!生ビールですね」


元気にそう言うと、すぐに腰を上げてオーダーに行ってくれた。


なんか今日は、ラッキーだったな。すごい楽チン。


そして、すぐに生ビールが届いた。届けてくれた人物は、まさに、まさに……。



「正樹先輩……?」


「おう、久しぶり。元気そうだな」


「驚いた……私、さっき、弟さんから聞いたばかりで」


「俺もだよ。まさかあいつが瑠璃子を連れてくるなんて……」


照れたように俯くクセは、昔のままだ。


「先輩、変わらないね」


「嘘つけ~。かなり太ったし、オッサンになっただろ。お世辞はいらねーよ」


「私はお世辞なんか言わない。太ったのは幸せ太りでしょう?それに、そんなに老け込んでないし。世間一般の40代より、全然」


「そうか?美容師のお前がそう言うんなら、本気にするぞ」


「どうぞどうぞ。自信持ってください。実際、モテるでしょう、今でも……」


そっと近付いて、油まみれのたくましい手に、


触れてみた。


……あの頃、彼は、私が初めて、と言っていた。


私も、貴志さんで多少経験があったとはいえ初めて同然だったから、私達は、幼いセックスをしていた。


でも今、こんなに男らしくなった先輩を目にして、
そしてほんの少し触れて、私は完全に♀のスイッチが入ってしまった。


しかし、


なお迫るように身を寄せると、


「やめてくれ。仕事中だし、俺には嫁も子供も
いるんだよ
聞いてるんだろ?」


私は、それでも全然かまわないのに……。


突き放された。


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