Lonely Lonely Lonely
「あっ、すみません!彼女、実はまだ研修中なんですよ。
そもそも、女性は雇わないつもりだったのに、どうしても、ここで働きたいと言って、きかなくて」
「ふ~ん。普通に、カフェとかで働いていそうだけどね。なんでこんな油臭い所に。あっ、ごめんなさい。失礼なこと、言ったね」
「いや、ほんとのことですから。油臭い上に男ばっかであせだらけの、こんなところに来るような子じゃないと思うんですけどね。
何度か断ったんだけど、どうしてもうちのラーメンが好きだから、ここで働きたいって、しつこくて」
へえ、そういうタイプには見えないけどな。
「だから、研修とい
形で、3ヶ月、俺達のしごきに耐えることが出来たら、認めてやる、と兄が決めたんですよ」
そして、噂の彼女がビールとキムチを持って再び現れた時、私は真意を悟った。
彼女の目。
私に向ける、挑戦的な、目。
その情熱的な目は、ラーメンへの愛ではない。
すべてが、水野誠に向けられている。
そして彼は、その事にまったく気付いていない。
面白い。
面白いぞ。
こういうの、私の大好物だ。
「ごゆっくりどうぞ」
私に腹をたてながらも、すぐに表情を変えてお決まりのリップサービス。
たいしたものだ。
「ありがとう、いただきます」
と、丁寧な返事を返してやった。
微笑みを返す彼女の目は、それでもどこか厳しい。
そして私は、余裕の笑みを返す。
フフっ楽しい。
きっと、気になって気になって仕方ないのだろう。
そもそも、水野誠は、自分の店に女を連れてくるようなタイプではない(と思う)。
それなのに、この女、何?偉そうにしてるけど、何者?
若い彼女の表情は、困るほどわかりやすい。
何故ならば、昔の自分が、そうだったからだ。
年上の男に惚れるということは、
年上の女を敵に回すということだ。
「あの子、名前、なんて言うの?」
「倉田です。倉田あずみ」
「若い、よね」
「A女子大の二年生です」
女子大生か。背伸びしたい年頃かもね。
「ふーん。私の後輩なんだ」
「えっ、瑠璃子さん、大卒で、美容師なんですか?」
野菜たっぷりチャンポンの箸を止めて、誠は目を輝かせた。
「うん。一度、化粧品メーカーに就職して、呆デパートで販売の仕事をしてたんだけどね。毎日毎日お客様にゴマすって、化粧品買ってもらって、私がやりたい仕事って、これなのかなーって考えて……。
そんな時に美容院に行ったら、自分のリクエスト通りのスタイルにならなくて、
文句つけるのも面倒だったから、家に帰って自分でカットして、直したの。そうしたら、ああ、これだ。
私がやりたいことってこれじゃないかって、気付いた。ヘタな美容師よりも、自分でやったほうが納得がいく。それから資格とったからね。私、けっこう遅咲きなのよ」