Lonely Lonely Lonely

「へえ~。そうなんですか。瑠璃子さんは順風満帆に美容師になって、開業に至ったのだとばかり……。やっぱり、紆余曲折あったんですね」


「まあ、それなりにね。開業って簡単なことではないでしょう。それはあなたも、知ってるでしょ?」


「ええ、まあ……」


再び、お互いに
箸がすすみだした。


いけない、話題がそれてしまった。


先程の後輩……倉田あずみが再びやってきて、


「こちら、店長からのサービスです」


と、少々ぶっきらぼうに、卵焼きを置いて行った。


「あら~、美味しそう!
ごちそうになります、と、よろしく伝えて」


「かしこまりました」


その、不満げな表情は、私にはたまらなくキュートに見えた。


しかし、


「なんだ?さっきまではいい感じだったのに、急に無愛想になったな。やっぱりまだまだか」


商売人の目は厳しい。
彼女の背を見る彼の目が、すぐ副店長に
戻る。


「ねえ、この後もまだ、時間ある?」


「ありますよーもちろん!
飲み足りないっすよね。もう一軒行きますか?」


厳しい副店長から、水野誠にスパッと切り替わり、私には最高級の笑顔を見せる。


「うん、まだまだ、行きましょう」


そして席を立ち、会計を頼むと、倉田あずみがレジに立った。


私が財布を出そうとしていると、誠が何か彼女に指示を出していて、結局、


「お会計は、けっこうです」


そして私は、またまた彼女の冷たい視線を浴びるのだ。


はい、気持ちいい!


嫉妬されるって、
最高に心地いいったらないわ。


悪いわね、倉田あずみ……。
あなた、処女よね。



あなたの大好きな副店長は、まもなく私の上に股がることになるわ。


男なんてね、簡単なもの。



ほんっと、ごめんなさいね。


私を敵視するなんて10年早い。


いや、あなたでは、10年経っても勝ち目ないかもしれない。


フフフ、フフ、ハハハッと、高笑いしたいところをグッとこらえた。


「さーて、どこがいいかな。けっこう、この辺にもいい感じのバーあるから、どこにお連れすればいいか悩むなあ」


「……ホテル」


「えっ?」


「近いよね。ここから……」


なんとなく、位置関係で、ラブホの付近であることを察していた。


「えっ、いいんですか?俺と?」


「うん。私、あなたと、イキタイ……」


彼は私の手をとって走り出した。


なんだかこういう感じも久しぶりで、胸が昂る。


そしてそこへたどり着くと、彼は荒々しい海のようなキスをしてきた。


激しい動きのまま衣類を脱がされ、荒波キッスは身体中に施され、私はもう、それだけで、快感の境地に至りそうだった。


「アア、アア~ン」


もともと、声は大きくて、貴志さんによく注意されたものだ。



もっともそれは、放課後の教室や化学実験室でのこと。もう、20年以上前の話だ。



いいか、るり……、声は出すなよ。


あの囁きが、今では懐かしい。
そしてそう言われても、声を漏らしてしまっていた、私は、幼い。


今日は、ラブホだ。私は、思いっきり、声をあげていた。


私の喘ぎに気をよくしたのか、


彼は私にこんな素敵なリクエストをしてきた。


「瑠璃子さん、僕の上で、踊ってくれませんか?」


私は無言で、快く、それに応えた。


水野誠の上で舞いながら、倉田あずみの顔がちらつき、私はもう、勝ち誇ったように、声をあげていた。


いろんな意味で、気持ち良かった。





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