Lonely Lonely Lonely
「なるほど、じゃあ、披露宴へ行く前に、そのむさ苦しい頭をなんとかしたいわけですね。
承知しました。
いかにも普段、着慣れてません、という感じの、そのスーツが、バシッと似合う、デキる男風にして差し上げましょう」
「水野さま、こちらへどうぞ」
磯川がシャンプー台へご案内。
私は、先輩に囁いた。
「シャンプーは。若い子が担当しますが、心配しないで下さい」
「おう。いいよ若手も経験が必要だもんな」
「さすが先輩!わかってらっしゃる」
「じゃあ、あとよろしくね」
と、磯川にバトンタッチ。
「はい、店長」
さきほどの、加藤さまと先輩の会話を一通り聞いていたという磯川は、すっかり安心しきった様子だった。
「それでは、改めまして、水野さま、本日シャンプーを担当致します磯川です。よろしくお願い致します」
「おう、ちほちゃん、よろしくな。気楽に行こうぜ気楽に」
「アハハッ、水野さまって、なんだか楽しい方なんですね」
「お、いいぞ、その笑顔。客商売は笑顔が命だからな」
数分後、
「かゆいところはございませんか?」
磯川の問いかけに、
「大丈夫だ。もう既に、かゆいところに手が届いてっから
。お前シャンプーの天才だな」
……ププ、先輩誉めすぎ。若い女子にシャンプ―してもらって、よっぽど嬉しいのか?
「大袈裟ですね。でも、嬉しい。
ほんと、楽しいですね」
「おう、そう言われると、こっちも嬉しいぜ、ちほちゃん」
「ありがとうございます。
では、シャンプ―終了しましたので、
カットの方へ。
既に私がスタンバイしていた席まで、磯川が丁寧にご案内。
加藤さまは、ご自宅でシャンプ―してから来店されるので、既にカットを終え、パーマに入っていた。この時間を利用して、先輩を仕上げる事ができる。
「よう、瑠璃子、俺が、自分でも楽に手入れできるように、頼むよ。希望は、それだけだ」
「はい、かしこまりました!ぶきっちょな先輩のために、簡単にスタイリングできる髪型、お任せください」
私の声に反応した加藤さまが、ウフフ、とお笑いになった。
すぐ隣りの席なので会話が聞こえていたようだ。
「あなた達、よほど仲が良いのね。なんだか、今日は、微笑ましいことが多くて、いつも以上に楽しいわ。
また、すぐに来てしまいそう」
「まあ、嬉しい。お待ちしておりますわ。加藤さま」
仲が良かったのはもうずいぶん昔のことだが……。
そんなことにはふれないでおこう。
先輩は今、お客様だ。