Lonely Lonely Lonely


「言っておくけどなあ、俺は、ぶきっちょじゃないんだ。

女みてぇにちまちま髪の手入れしてる時間がねえんだよ、俺は忙しいの!
だから、手早くできる髪型がいいんだよ
。わかるか?」



「は、はい。失礼しました。もろもろ、承知しました!」


そして、カットしている間に、先輩は、話してくれた。
これまで一度も口にしてくれなかったことを。




「お前、あいつから、うちのこといろいろ聞いてるか?」



「いいえ、特に何も。ただ、似てないねと言ったら、親が違うからですとは聞きました
。それ位ですよ」

「そうか。それだけか」


なぜか、先輩は、安心したような表情でふぅ、と息をついた。



「俺の母ちゃんはな、俺が小3の時に病気で死んだ。

そして小5の時に親父が再婚した。新しいお母さんだと紹介された、今の、おかんが、連れて来たのが小学校に入る前のあいつだった」


「お前の弟になる誠くんだって言われて、正直嬉しかったよ。弟か妹ほしかったからさ」


「そうでしたか~。私全然知らなくて……。なんの気遣いもできず、すみませんでした」


小学校時代のことだから、お前、知らなくて当然だろが」



「そうですが、そんな過去があったなんて、まさかお母さまを亡くされていたなんて……だって」



「だろうな、ウチはいたって家族円満だったからな、、あいつが姿を見せなかったというだけでな。



あいつはな、小学校には、ちゃんと

通ったんだけど、中学からは勉強が簡単すぎてつまらないと言ってひきこもりになっちまった。


すげえ秀才だったんだよ、あいつは。テストだけは受けに学校行って、成績優秀。全国模試でもトップクラス。信じられないだろ?」


「す、すごいですね
。ビックリです」



ということは先輩の5~6歳下かあ。
つまり私の3~4歳下ということだ。


意外だった。秀才ということより、そちらの方が。



「あらあ、お会いしたいわねその弟さん」


加藤さまが、こちらを向きながら、そうおっしゃった。



またしても、丸聞こえか。

好奇心旺盛な方だからな。
でも、



「ああ、おばちゃん、さっき俺がやった名刺の店に、昼間行けばいいんだ。日中は弟が、しきってるから。もし、場所が全くわからないようなら、瑠璃子と一緒に来ればいい」



って、おい!
勝手になんてことを、
イヤじゃないよ。決してイヤではない。
でも、どこで誰に出合うか
わからない。
だから、プライベートでお客様と関わることは、極力避けたかった。

しかし、今、
ふたりとも大事なお客様だ。空気を悪くはしたくない。


「はい、もちろん、ご案内させていただきますよ」



仕事だ、と思うと、心にもない言葉がスルスルと出てくるものだ。


嫌だなんて言えない。ただ、ひとつだけ確認しておきたいことがあった。

どうしても、イメージ出来なくて。
加藤さまがラーメンって。


「加藤さま、先輩のお店はラーメン屋さんですよ」



「ええ。私、ラーメン大好きなの。だから、余計に行きたくなったのよ。よろしくね。瑠璃子ちゃん」



「は、はい。承知しました!」



そう答えるしかないと思った。






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