Lonely Lonely Lonely
樹は、司法試験になかなか合格することができず、バイトしながら勉強する日々。そして時々ツーリング。
「いつになったら弁護士さんになってくれるのかねえ。あんたの彼氏はねえ」
と、母は呆れたように嘆いていました。
そんな樹は、30歳が近くなった頃にやっと弁護士のバッジを手にすることができました。
「俺、このまま、めぐみに養ってもらうような人生を送るのはヤバいと思って、頑張ったんだよ!」
うん、うん。もうちょっと早く気付いて欲しかったなあ……。それに。
なあんて本音は隠し込んで、ひたすら
「良かったね,。樹はよく頑張ったよ!」
と誉めちぎってあげました。
私達は、甘かったんです。
これからが大変なのだということを
わかっていませんでした。
法律事務所に勤めるようになって、しばらくすると、
樹は、弁護士という仕事に違和感を覚えたようでした。
「理不尽なことでも、勝ちに行かなくてはいけない。権力のあるクライアントには逆らえない、何だか、いいように使われてるようで、嫌だよ」
そんな愚痴をこぼすようになってきました。
「樹は、まだやりがいを見いだせてないだけなんじゃないかな?だから、嫌なことばかりに目が行ってしまうんじゃない?」
「やりがい?」
「そう。樹は今、何のために仕事してるの?」
「何のためにって……なんだろう」
「ダメだよ、それじゃ。」
「じゃあ、めぐみは?そう聞かれて答えられるのか?」
「もちろん、言えるよ」
「じゃあ言ってみてくれよ」
「樹が言えるようになったら、教えてあげる!」
「ええ~っ。ズルいなあ」
「ズルくないよ、全然っ。ズルくないんだから~!」
苦い顔をしていた樹に、やっと笑みが戻り、
彼も仕事に誇りと
やる気を持ち始めた矢先のことでした。