Lonely Lonely Lonely
「腕はいいんだけど、接客がね。なかなか上手くならなくてねぇ」
それでもなお愚痴り続けるるりちゃんに、私は
「いいんじゃないかなあ」
と声をかけました。
すると、
「は?」
という、るりちゃんにはそぐわない、マヌケな声が返ってきました。
「接客って、別にマニュアル通りじゃなくても。彼には彼の良さがきっとある。
たしかに、接客に苦手意識がありそうだけど、慣れれば大丈夫でしょう、きっと。
私、今度あの子指名するよ。前川くんね」
「そう、ありがとう!グミ。私ちょっと余計な心配しすぎたかな?」
「仕方ないよ。るりちゃんオーナーだもん。でも、あまり完璧主義すぎると、店員さんも店の雰囲気も悪くなってしまうから、多少ゆるめでも、いいんじゃないかなあ、なんてね。
余計なお世話かな」
「そんなことないよ。私に、そこまで意見してくれる人、いないから、逆に助かる」
「だろうねぇ、だってるりちゃん、怖そうだもんね。アハハハハ」
一緒に笑いあうるりちゃんを見て、
美容師さんたちは目を丸くしていました。
やっぱり、普段はおっかないんだろうね。
「前川~!前川は、いる~?」
「ちょっと、るりちゃん、そんな大きな声で…」
美容院で、そんな大声出されたら、びっくりしてしまうよ。迷惑だよ。
「え?だって、今、あんたしかお客さんいないし、問題ないよ、何も」
満面の笑み。幸せそうだなあ。
つられてしまうよ。
「は~い」
奥の方から前川くんの声がした。
給湯室か?お手洗いか?
すぐに、彼は、やって来ました。
なんだかるりちゃんの家来のようで、可愛いです。
会話をしながら、るりちゃんは、カラーリングをテキパキと進めてくれていました。
最後に前川くんにブローしてもらって、その日は終了。