Lonely Lonely Lonely


「腕はいいんだけど、接客がね。なかなか上手くならなくてねぇ」



それでもなお愚痴り続けるるりちゃんに、私は



「いいんじゃないかなあ」




と声をかけました。


すると、



「は?」



という、るりちゃんにはそぐわない、マヌケな声が返ってきました。



「接客って、別にマニュアル通りじゃなくても。彼には彼の良さがきっとある。
たしかに、接客に苦手意識がありそうだけど、慣れれば大丈夫でしょう、きっと。
私、今度あの子指名するよ。前川くんね」



「そう、ありがとう!グミ。私ちょっと余計な心配しすぎたかな?」



「仕方ないよ。るりちゃんオーナーだもん。でも、あまり完璧主義すぎると、店員さんも店の雰囲気も悪くなってしまうから、多少ゆるめでも、いいんじゃないかなあ、なんてね。


余計なお世話かな」



「そんなことないよ。私に、そこまで意見してくれる人、いないから、逆に助かる」



「だろうねぇ、だってるりちゃん、怖そうだもんね。アハハハハ」



一緒に笑いあうるりちゃんを見て、
美容師さんたちは目を丸くしていました。



やっぱり、普段はおっかないんだろうね。



「前川~!前川は、いる~?」



「ちょっと、るりちゃん、そんな大きな声で…」



美容院で、そんな大声出されたら、びっくりしてしまうよ。迷惑だよ。



「え?だって、今、あんたしかお客さんいないし、問題ないよ、何も」




満面の笑み。幸せそうだなあ。



つられてしまうよ。



「は~い」



奥の方から前川くんの声がした。



給湯室か?お手洗いか?



すぐに、彼は、やって来ました。
なんだかるりちゃんの家来のようで、可愛いです。




会話をしながら、るりちゃんは、カラーリングをテキパキと進めてくれていました。



最後に前川くんにブローしてもらって、その日は終了。














< 57 / 144 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop