Lonely Lonely Lonely
1・みるく
「えっと〜、翔くんとは」
本屋さんで、出会った。
好きな本を購入し、併設のカフェでゆっくり読書していたら、
弟、裕太との約束の時間が過ぎていた。
裕太はその日、友人のホームパーティーに招かれていた。昼間から飲んでいるので、6時に迎えに来てくれと頼まれていた。
「ヤバイッ」
5分過ぎてる!!ここから、その家まではどんなに頑張っても15分はかかる!
超ヤバイ……!!
ゆっくりしすぎたぁ!!
私は、走り出した。
一目散だった。
その時に、彼とぶつかってしまった。
「きゃあっ!!」
「あ、イテッ!!ごめん、大丈夫??」
悪いのは100%私なのに、彼は、そう言ってくれた。
転んだ拍子に放り投げてしまった、その日買ったばかりの本を拾ってくれて、立てずにいた私に手を差し延べてくれたのだ。
「百人一首、好きなの?」
私が購入した本をちらりと見た彼は、
私にそう言った。
「あ、ええ、まぁ……」
緊張していた。一気に、ものすごく緊張した。
差し延べられた手は、冷たかった。
手が冷たい人は心が温かいというけど、
本当なのかな?この人は、
大丈夫なのかな?
「素敵な趣味だね。僕も勉強しようかな」
彼は笑顔を向けてくれた。
「ふ、うふふ……」
うまいことが何も言えず、緊張のあまりうすら笑いしていた私に、
「よかったら、お茶でも飲みませんか?」
そう言ってくれた。
何?何これ、ナンパ?
いや、違う。
これはナンパじゃない。大人のお誘いよ。
お・さ・そ・い。
これは、素敵な出会いなのよ〜!!
しかし……。
「ごめんなさい。時間がないんです」
断ってしまった。裕太のバカー!!心の中で、そう叫んでいた。
その時、ブーッ、ブーッと私のバッグの中で、携帯が唸り始めた。