月に降る雨
「…………」
―ど、どうしよう。
言うなら今だ。
なのに…
お礼 言うだけなのに、
改めて言おうと思うと、めちゃくちゃ緊張する……!―
「……ね、ねぇ
貴?」
「…何ー?」
あたしは声が裏返りながらも頑張って覚悟を決めて、
息を吸い込んだ。
「………有り難う」
「……え」
「いつも…ありがとう」
「……」
―何か……
″父の日″みたいに なってた…?―
貴が無言に なってしまったから、
首を傾げて恐る恐る様子を覗ってみる。
貴は しばらく放心状態で固まってた けれど、
そのうち やっと苦笑を浮かべて、言った。
「…雪 降るわ 笑」
「酷っ 笑」
貴と あたしは…いつも こう。
真剣な話なんて、似合わない。
本音は言わないけれど、
言いたい事を言い合ってる。
本音は…わざわざ言葉に しなくても、分かるの。
…感覚が同じだから。
だから たまに こんな風に真面目な台詞を言えば、
どっちかが照れて、話を逸らしちゃう って事も、
分かってる。
貴と あたしは…ずっと、そうだったから…。