月に降る雨
「…大丈夫だよ」
「え…?」
「だいぶ良くなって来たし、
このまま行けば、もうすぐ退院できる って」
にこにこ しながら、みちるくんが言う。
…みちるくんは、優しい。
あたしが無理して喋ってる って いうのを感じ取ると、
困ったように笑って、何も訊こうと しないで居てくれるのに、
自分の事だと、あたしに気を遣わせないように、にこにこ笑って、話してくれる。
「そうなんですかぁ…。
よかったですね!
早く…
退院 出来ると いいですね♪」
「…うん、ありがと」
みちるくんは例の…低い、落ち着く声音で、言った。
あたしは何だか…穏やかな気持ちに、なった。
だけれど、
同時に泣きそうにも なる…。
貴が居なくなって ぽっかり と 穴が開いてしまったみたいな あたしの心に、
みちるくんの柔らかい雰囲気や優しさが沁みて……。
思わず、みちるくんに甘えてしまいそう だった。
でも慌てて、その感情を打ち消した。
「…あ、そうだ!
あたし ちょっと かず兄の顔、見て来ますね!
今日は ずーっと ここに居て…、
まだ かず兄の部屋 行ってないんです」
半分 嘘を吐いて、あたしは みちるくんから、離れた。
幸い さっき かず兄の部屋へ出入りした時も会わなかったから、
この嘘は、バレないだろう。
「…そっか 笑
行ってらっしゃい」