月に降る雨




…そして。


信じられない物を、取り出した。






「!!」




―…何で ここに、それが………?―




…かず兄の手にある果物ナイフを見つめて、ただ固まる。




病院に、しかも この病棟に、

何故そんな物が あるのだろう?


面会の人が持ってるなら まだしも、

さすがに ここに入院してる患者さんに、看護師さんも渡す筈がない。




声も出せない あたしに、

かず兄は いつもと変わらない様子で、話し始めた。






「リアさぁ…、俺が今ここで″自殺する″って言ったら、

止めるよね?」




そう言って かず兄がナイフを自分の首に突き付けたのを見て、

あたしは反射的に、飛び込んで かず兄の手を押さえた。






「……」




「……」




間近で見上げると、かず兄と目が合う。






「やっぱ、止める…よね 笑」




「当たり前でしょ…」




泣きそうな あたしの顔を見て、かず兄は困ったように、笑った。






「かず兄、なんで こんな事……」




「…でも、さ。


ここで俺が″自殺する″って言って、

ここじゃない どこかで貴史も同じ事したら……、


…リアは どっちを止める?」






「…!?」




「俺1人だったら、俺を止める って事は、

今 見てて、分かったよ 笑


でも、俺と貴史だったら…、


リアは どっちを取るの?」






「だから何で、そんな事……」




…あたしの口からは、さっきから同じ言葉しか出て来ない。




早く、看護師さんか誰かが来て、

この状況を何とかして欲しい…。


…とにかく、そう思った。





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