月に降る雨
「…今日は、遅かったね」
いつもより遅く辿り着いた病室で、かず兄が言った。
「ちょっと そこで立ち話しちゃって…」
「…そっか。
なら いいんだけど」
「うん?
何?
どうか したの?」
何だか かず兄の言い方が引っ掛かって、あたしは聞き返した。
「うーん…
何かリア、いつもと様子が違って見えたから」
「そう、かな…?」
もちろん自分では、″いつもと違う″なんて実感は なかったけれど、
かず兄が心配してくれてるのかな?って思ったら、嬉しくなった。
「…かず兄?」
「ん?」
「ありがとー♡♡」
あたしが今にも抱き付きそうな勢いで言うと、
かず兄は笑顔で若干 身を引いた。
…うん、知ってる。笑
かず兄にとって あたしは、妹みたいな存在でしかない って、
最近の かず兄の様子を見て、あたしは特に思ってた。
「…嘘だよ 笑」
さっきより少し遠くなった かず兄に、あたしは笑った。
″何にも しないから大丈夫だよ″なんて、
男の子が女の子に言うような台詞を言って、笑った。
それを聞いて かず兄が浮かべた、
ちょっと ほっと したような笑顔が、切なかった。