月に降る雨




「…今日は、遅かったね」




いつもより遅く辿り着いた病室で、かず兄が言った。






「ちょっと そこで立ち話しちゃって…」




「…そっか。


なら いいんだけど」






「うん?


何?


どうか したの?」




何だか かず兄の言い方が引っ掛かって、あたしは聞き返した。






「うーん…

何かリア、いつもと様子が違って見えたから」




「そう、かな…?」




もちろん自分では、″いつもと違う″なんて実感は なかったけれど、

かず兄が心配してくれてるのかな?って思ったら、嬉しくなった。






「…かず兄?」




「ん?」






「ありがとー♡♡」




あたしが今にも抱き付きそうな勢いで言うと、

かず兄は笑顔で若干 身を引いた。




…うん、知ってる。笑


かず兄にとって あたしは、妹みたいな存在でしかない って、

最近の かず兄の様子を見て、あたしは特に思ってた。






「…嘘だよ 笑」




さっきより少し遠くなった かず兄に、あたしは笑った。


″何にも しないから大丈夫だよ″なんて、

男の子が女の子に言うような台詞を言って、笑った。




それを聞いて かず兄が浮かべた、

ちょっと ほっと したような笑顔が、切なかった。





< 15 / 160 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop