月に降る雨
授業が終わり放課後に なると、
あたしは いつものように病院へ直行した。
でも かず兄の病室に入る前、
中に人の気配を感じて、あたしは入るのを躊躇った。
…女の子が、居る…。
雰囲気で、何となく看護師さん ではない事が、伝わって来た。
普段は あたしや貴や、男友達ばかりで、
たまにクラスメイトの女の子が来てくれても、
2、3人 一緒だったり、そうじゃなかったら、男の子も混じったり していたから、
かず兄の病室に女の子が1人で お見舞いに来てる所は、見た事が なかった。
どうしよう…、
予想通り、この中に居る人が もし1人で、女の子で、
いい雰囲気だったり したら、もう立ち直れないかも……。
見たくも ないし聴きたくも ないのに、
体が貼り付いてしまったかの ように、動けなかった。
いつまでも ここで こんな事を してちゃ駄目だって、
頭では分かってるのに。
…だけど、動けない。
関係ないのに、昨日の傷まで痛み出して来て、
あたしは気持ち悪さから、立っている事も苦しくなって来た。
学校へ行くのが嫌な時に お腹が痛くなるのと同じ感じで、
あたしは嫌な事とか辛い事とかを思い出したりすると、身体的にも気持ち悪くなる。
頭は痛くなるし、胸は苦しくなるし、
吐きっぽく なったりも する。
これは身体的な苦痛の″トラウマ″と
精神的な苦痛が結び付いちゃってるから…だと、自分では勝手に思ってるのだ けれど…
とにかく今、それが発動中で、あたしは その場に座り込みそうに なった。
でも…
いけない、いけない…。
″ここ″で倒れたら、別の病院に連れて行かれる…。笑
あたしは頑張って、別の事に意識を集中させて、
何とか その場を離れた。
それから行く場所が なくなって しまって…
あたしは ふらふら と、当ても なく、病院の中を歩き始めた。
そして
″今日は このまま帰ろうかな″
…そう思った時、
聞き覚えのある声が耳に飛び込んで来て、
あたしは思わず、声のする方を振り返った。