月に降る雨
「…リア!」
「貴…?」
患者さんや面会に来た人達が
のんびり お茶を飲んだりするスペース(名称は分からない)に、
貴が居た。
あたしが授業中に見掛けた時は女の子と一緒だったけれど、
今の貴は、1人で来ているみたい だった。
「リア、大丈夫!?」
あたしの近くに駆け寄って来て口を開くなり、貴は そう言った。
「え、あ…うん。
大丈夫だよ!」
貴は きっと昨日の傷の事を言ってるんだろうな って思ったから、
あたしは手を ひらひら振りながら、笑って答えた。
「…嘘」
「へ?」
「…う、そ。
お前が″大丈夫″って言う時は、
大体 大丈夫じゃないし 笑
それにさぁ、
お前 向こうから来る時、ひどい顔してたし」
「ひどい顔って…」
まぁ、その通りっちゃ その通り…ですけれども。
でも その、助けに来て欲しいと思ってる時に、タイミング良く助けに来てくれるヒーローっぷりは、
ズルイぞ。
貴に心配されると何て言うか…、気が緩むって言うか、
安心感がハンパなくて…
…思わず、頼りたくなっちゃうから。
頼っちゃったら、
自分が貴が居ないと生きて行けない弱い人間みたいに思えて、ヘコむから。
だから、″やめて欲しい″…
…なんて考えていると、貴が あたしの顔を覗き込んで言った。
「…で?」
「は?」
「どーせ また、香澄がらみ なんでしょ?
話 聴くだけなら、聴いてあげるよ」
…うん、
こう言われて貴には いつも話してしまう訳ですよ。
何でかなぁ…。
かず兄は あたしの命を救ってくれた人で…、大好きだから、
もう2度と迷惑は掛けられない。
…あの時、そう誓った。
だから かず兄には、マイナスな事は一切 話せなくなっちゃったんだ けど…、
貴には、マイナスな事もプラスな事も、いつも結果的に全部 話してしまう。
何で、なんだろう……。