月に降る雨
もし貴が話を誤魔化さなかったら…
あのまま真面目なトーンで話を続けていたら…、
どうなっていた だろう?
あたしは そこまで考えて、
ぶるぶる と 頭を振った。
「…そうだ。
ちょっと俺 香澄に会って来る」
話が途切れた時、
貴が思い出したように そう言って…
病室へ行きかけると、ふいに振り向いた。
「…りぃは?」
「ごめん、
あたしは ちょっと…」
さっき変な出方をして来ちゃったから、
今 戻るのは…自分的に気まずい。
貴は あたしの苦笑を見て何かを察したのか、
″じゃあ俺だけ ちょっと行って来るわ″って、早足で向かって行った。
貴の そういう…
″気遣い″は凄いと、思う。
″ちょっと…″って言ったら、″ちょっと って何?何か あったの?″って訊く人も居るかもしれないのだ けれど、
貴は″ちょっと″の一言で察してくれるし…
早足で行ったのは、少しでも早く戻って来てくれよう と しているからなんだ と、思う。