孤高の魚
僕はしばらく呆然として、キッチンのダイニングテーブルに体をもたれたまま、その美しい手紙を眺めていた。
この手紙は、歩太宛てにしては何だか異質な感じだ。
この部屋にはかつて、自称『歩太の彼女』が沢山出入りしていたけれど、みんなチャラチャラした使い捨てのような女の子達ばかりだった。
それに比べるとこの手紙の差出人は、至って古風で真面目で、その女達とはまるで違うように思える。
艶々としていて、妙に明るい純粋無垢な雰囲気を、このたった一通の手紙の中から充分に醸し出している。
………
野中七海。
彼女が誰なのかは知らないけれど、この手紙は、何だかとても大切な物であるような気がしてならない。