孤高の魚



……本当は。

そういう訳じゃないんだ、と、僕は彼女に言い訳したかった。
僕が今、曖昧に答えたのは、君が望むような答えじゃないからだ、と。

けれどももちろん言わなかった。
言っても、妙な空気を作ってしまうだけだ。


………


それから僕達は

「じゃあ、5時に、ここで」

と言って玄関で別れた。

欲を言えば野中七海のあの柔らかい声で
「いってらっしゃい」
と見送ってもらいたかったけれど、あいにくアパートの鍵が一つしかなかった。



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