孤高の魚
気分がいいので、僕はポケットから煙草を一本取り出し、ちょっと立ち止まって火を付けた。
紫がかった白い煙がフワリと空に立ち上る。
………
歩調に合わせながら煙草の灰を落とし、僕は歩きながら野中七海の事を考えた。
彼女ならきっと、僕の歩き煙草を注意するだろう。
と、何故かそんな事を思った。
そうして尚子なら、あたしにも一本ちょうだい、と言って便乗する。
それは、何だか決定的な違いの様な気がした。
……よし。
なら、今からもう歩き煙草は止めよう。
まだ注意もされていないのに、僕は小さな決心をした。
「……やっぱり……」
と、それから僕は一人呟いた。
今朝の夢の、歩太の予言めいた言葉は、きっと現実のものになるのだろう。
……歯車はとっくに回り出している。
しかも、それはきっと誰にも止められない。
僕には今、何故だかそんな風に思えてならなかった。