孤高の魚
僕はメールの返信もせず、小走りでアパートを目指した。
町中を歩き回って、彼女も疲れているに違いない。
温かいコーヒーを入れて、それから二人でさくらへと出勤しよう。
頬に当たる風は冷たかったけれど、野中七海の事を考えると僕の気持ちは何だかホッコリと温かかった。
………
アパートの階段を上り踊り場へ出ると、野中七海が小さな体を丸めてドアの前で踞っている姿が見える。
……寒いのだろう。
まだ約束の5時にはなっていないはずだけれど、僕は申し訳ない気持ちになった。
「……ご、ごめっ…」
息を切らせて駆け寄る僕を、彼女は踞ったままゆっくりとした動作で見上げる。
その表情は、僕には何だかひどく疲れているように見えた。