孤高の魚
キッチンに入ると、今度は煙草の匂いが鼻に付いた。
野中七海がダイニグテーブルで頬杖をつき、細い煙草をくわえている。
その先からゆらゆらと上がる、青にも近い煙草の煙。
……野中七海と、煙草?
何だか妙な組み合わせだ、と僕は思った。
「煙草……吸うんだね……」
思わず口に出してしまってからハッとする。
余計なお世話かもしれない。
「……似合わないでしょう?」
野中七海が微笑む。
「……いや、うん。まあ……そうかな」
僕はまた、曖昧な返事をしてしまった。
「……アユにもよく、叱られたわ。ナナには煙草は似合わないからやめなさいって。……このキッチンも、禁煙だったでしょう? あの人、食べ物やコーヒーの香りを、すごく大事にしていたから」
彼女の言う『あの人』には、なんだかどこか刺があった。