孤高の魚
「……そういえばそうだったかな」
僕はそう呟きながら、キッチンに立ちコーヒーを啜る歩太の、スルリとした美しい姿態を思い出していた。
………
『歩夢、君の煙草は外国製?……きっとそうだと思ったよ。この匂いなら、君のシャツから仄かに香ったって悪くない。コーヒーによく似合う』
そう言って俯いた歩太の、白い頬に細く長く伸びる睫毛。
縁なし眼鏡の奥でも、その鮮やかな黒はハッキリと見て取れた。
コーヒーを啜る時の歩太は、本当に美しかった。
男の僕だって、いつもそう思わずにはいられなかったのだ。
そんな歩太の恍惚とした顔を、かつて野中七海はどんな表情で眺めていたのだろうか。