孤高の魚



僕はそんな思いを振り払うように、ヤカンに勢いよく水を入れ、コンロで火にかけた。
あいにく僕は、美味しいコーヒーを入れたくてもコーヒーメーカーの使い方が分からない。


「コーヒー、インスタントでもいい?」


「……え? コーヒー、アユニがいれてくれるの? ……嬉しい」


そう言って僕に微笑む野中七海の顔は、さっきよりは幾分か明るい。
彼女の顔は、一瞬で表情がくるくると変わる。


「……で? 君の知らない歩太は、見付かったの?」


インスタントコーヒーを注いだマグカップをテーブルに置きながら、僕はまた余計な事を言ってしまった、と思った。
……というのも、僕がそう言った後すぐに、彼女の表情が一瞬翳ったように、僕には見えたからだ。



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