孤高の魚
「……あ、いや、いいんだ。ごめん」
戸惑う様子の彼女に僕が咄嗟に謝ると、彼女は渋々といった感じで煙草を灰皿に置き、持っていたバッグからブルーのノートを取り出した。
それは文庫本くらいのサイズで、厚みもいくらかある。
あの手紙のブルーと、よく似たブルーだ。
「……内緒だよ? アユニ」
そう呟きながら、彼女はさも愛しそうにそのブルーのノートを眺める。
「ここに、わたしの知らないアユを詰めるの」
「……詰める?」
なんだか物騒な響きで、僕は思わず聞き返してしまう。
「そう。文字にして、詰めてしまうの。アユを」
そう言ってノートを見る彼女の目は、嫌に真剣だ。