孤高の魚



僕は三枝という男の、軽薄でしかない言葉の選び方を思い出していた。
そういえば歩太も、彼を軽蔑するどころか、全く相手にしていない節があった事を思い出す。


「……ああ。わかるよ。確かにそんな人だ」


「だから、なんだかすごく、疲れちゃった。……でも、少しでも拾いたかったから、アユの事。わたしも、真剣に向かいすぎた。何回も何回も覗いて、それでもやっぱり、相手は空っぽだったけど」


灰皿の上でほとんど灰になってしまった煙草を、野中七海は消すでもなくただ見詰めていた。

それから視線をふいに僕に向けて、

「やっぱり。だから、アユはアユニを選んだのね」

と、ちょっと意味深な発言をしてから笑った。



< 113 / 498 >

この作品をシェア

pagetop