孤高の魚



野中七海の初出勤の今日。
珍しく団体客が入り、さくらは忙しかった。

小さなボックス席3席はあっと言う間に埋まってしまい、初日だと言うのに彼女は席を一つ任されている。

僕は、彼女がうまくやっているかどうかが、さっきからカウンターの中から気になって仕方がない。


………


「歩夢、お前またあの子見てるな。お前、客は目の前にいんだぞ? 接客しろ、接客」


そうやって工藤さんにイヤミを言われてしまうのも仕方がない。


「ああ、はいはい。……水割り、薄いっすか? もっと濃くします?」


「薄くねえよ、お前、俺のヘネシー、減りすぎだろ。これ、昨日だぞ、いれたの」


僕は、この工藤さんというお客さんとは相性がいい。

工藤さんはいつもこのカウンターの一番端に座って、店が混んで相手が僕しかいなくても、嫌な顔をするどころか逆に喜んでくれる。

「俺は男の方が好きなんだよ」

そう言って笑うのは、恋人である小百合さんへの配慮でもあると思う。



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