孤高の魚



工藤さんは某企業のエンジニア。
お金も地位もあるけれど、それを全く鼻にかけない。

奥さんと子供を家に残して、さくらで一杯飲むのが工藤さんの息抜きになっている。
週に4日は必ずさくらに来る。


「歩夢、お前、後でちょっとあの子に代われ」


「……あの子?」


「ナナミちゃんだよ、ナナミちゃん」


「……それは無理っす」


「お前、なに敬遠してんだよ。違うよ、歩太の事だよ」


キツい煙草の黄がかった煙を大量に吐きながら、工藤さんが半分おどけた様な怪訝な顔をした。
工藤さんは普段から眉間に皺が寄っている。


「……あー」


「あー、じゃねえよ。あの子、歩太を探してんだろ?」


工藤さんもまた、歩太贔屓の一人だった。

ここにも、歩太が休みの日に二人で来店した事もある。
逆に、僕をCOMへ連れて行ってくれる事もしばしばあった。
歩太がいなくなってからは、工藤さんはめっきりCOMの方へは行かなくなったけれど。



< 118 / 498 >

この作品をシェア

pagetop