孤高の魚
工藤さんは某企業のエンジニア。
お金も地位もあるけれど、それを全く鼻にかけない。
奥さんと子供を家に残して、さくらで一杯飲むのが工藤さんの息抜きになっている。
週に4日は必ずさくらに来る。
「歩夢、お前、後でちょっとあの子に代われ」
「……あの子?」
「ナナミちゃんだよ、ナナミちゃん」
「……それは無理っす」
「お前、なに敬遠してんだよ。違うよ、歩太の事だよ」
キツい煙草の黄がかった煙を大量に吐きながら、工藤さんが半分おどけた様な怪訝な顔をした。
工藤さんは普段から眉間に皺が寄っている。
「……あー」
「あー、じゃねえよ。あの子、歩太を探してんだろ?」
工藤さんもまた、歩太贔屓の一人だった。
ここにも、歩太が休みの日に二人で来店した事もある。
逆に、僕をCOMへ連れて行ってくれる事もしばしばあった。
歩太がいなくなってからは、工藤さんはめっきりCOMの方へは行かなくなったけれど。