孤高の魚


『あっ、歩夢?』


僕が通話ボタンを押すのとほぼ同時に、待ってましたとばかりに、やけに甘ったるい尚子の声が受話器から僕の耳にまとわりつく。

嫌ではないけれど、この尚子の声のテンションに僕はなんだか途端にげんなりしてしまう。


「ん――…」


僕のだるくて小さな返事は大抵、尚子の耳には届かない。


『今日ね、仕事3時に終わるから、待ち合わせしよ。歩夢、今日ヒマでしょ? 授業ないし』


「………」


『ねっ、3時半に、新宿駅』


「……ん――…」


『ね、いいでしょ?』


面倒くさがる僕の態度に、尚子はすぐに念を押してきた。


『じゃ、そうゆうことで』


「……あっ……ちょ」


僕の返事を待たずに、尚子の電話はすぐに切れる。


尚子はいつも何かと忙しくて、慌てて電話を切る癖がある。

相手の返事を待たずに電話を切るくらいの事は、尚子にしてみればいつもの事だ。

僕は溜め息を吐きながら、先に切れてしまった電話を静かに切る。


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