孤高の魚
「……とりあえず、上がったら」
焦りを隠しながら僕がキッチンへと尚子を通すと、野中七海は尚子のために新しいコーヒーを入れてくれていた。
コーヒーのいい香りが、キッチンいっぱいに漂っている。
「あっ……はじめまして、尚子さん。わたし、野中七海って言います。
この間からここで、歩夢さんと一緒に暮らしています。
兄が……歩太が、お世話になっていたって、歩夢さんに聞いて」
僕が説明するより先に、野中七海は凛とした態度で振り返り、そう尚子にきちんとした挨拶をした。
尚子は最初こそ驚いて僕の方を睨んだけれど、彼女の自己紹介を最後まで聞くと
「え? 歩太の妹なの?」
と、好意的な興味を示した。
尚子の顔色が心なしか明るくなる。