孤高の魚
「尚子さんは、その……兄とは?」
「え? 歩太と? 付き合ってたのかって事?
ううん別に。
アイツ、女いっぱいいたし」
尚子の口調は軽薄で強く、それは僕にはどこか、野中七海に対しての虚勢のようにも見える。
それに比べて野中七海は落ち着いていて、強いけれど柔らかい視線を尚子にじっと傾けている。
「でも、特定の彼女はいなかったんじゃないかなあ、アイツ。
いっつもなに考えてるかわかんなかったし。
難しいヤツだったもんね。
彼女とか、ムリなんじゃない?」
そう吐き捨てるように言う尚子の言葉を、野中七海は黙ったまま受け取っていた。
……そんな尚子の言葉に、彼女はいったい何を思っているのだろう。
俯く彼女の表情から、何か読み取れないかと、僕は向かいからじっと彼女を盗み見ていたけれども、結局は何も窺えなかった。
ただ意味あり気に、彼女の長い睫毛がパタパタと微かに震えているのがわかる。