孤高の魚
「あげくの果てに、さあ、いなくなっちゃって。
何もかんも捨てていっちゃってさ、アイツ」
「……捨てて?」
それは意外だ、とでも言う様に、野中七海は思いがけず顔を上げて、尚子の言葉を繰り返した。
そんな彼女の様子に、一瞬、尚子が怯む。
「えっ、だってそうでしょ?
何にも言わないで、行っちゃってさ。
あたしら、アイツに捨てられたんよ。
気まぐれなんだよね、だいたいが、ムカつく。
今頃どっかで、女んとこででも、のうのうと暮らしてんだよ、きっと」
レーズンを頬張りながら、尚子の態度は嫌に投げやりだ。
語調も、どこかいつもより乱暴で苛立っている。