孤高の魚
野中七海の事を意識しすぎているのだろう。
彼女は、女の尚子から見たら、闘志を剥き出しにしたくなるような女の子なのかもしれない。
尚子が徐々に苛立っていくのは、真っ直ぐな野中七海の視線が痛いからなのだ。
「……そうかな。アユは、気まぐれなのかな」
「そうでしょ。でなきゃ突然、いなくなったりしないでしょ。
嫌になっちゃったんじゃないの? 急に。
日本のどっかでさ、だれか女のところで、ヒモみたいに暮らしてんのよ、絶対」
「………」
野中七海はコーヒーカップを両手で包み込みながら、暫くの間、言葉を噛むようにして考え込んでいる。
そうして僕は、相変わらず何も言わないままでいる。
今ここで口を挟めるほど、僕は歩太の事を知らないだろう。