孤高の魚
野中七海の言葉はやはり重く強いけれども、その重量には似合わない可愛らしい声音のせいで、柔らかくしなやかな雰囲気も持っている。
それは、何だかとても不思議だ。
「わたし、思うのだけど……
人って誰でも、何か物質的な物に記憶を変えながら、自分の存在するための城を持つものなんだと、思うの」
「……城?」
ここで僕は初めて口を挟んだ。
野中七海は一瞬、チラリと視線を僕に動かしてから、またすぐにカップに視線を落として、それからまたしなやかな発音を続ける。
「そう、城。
自分や、自分の大切な人が存在していた証を、一つづつ何かに変えて、側に飾りたてるの。
そこでやっと、人って安心できるのよ。
……きっとそうなの。
アユだってそうよ。
アユは、何かに守られなければ、本当はすごく、弱い人なのに」