孤高の魚
「はい」
野中七海は振り返らずに、躊躇いもなくそう答えた。
「アユは、わたしが存在するためには絶対に必要なんです」
相変わらず、キッパリとした強い口調だった。
彼女の言葉には、いつも迷いなんか感じられない。
真っ直ぐで、優しいのに鋭く……痛い。
「………」
珍しく、尚子が野中七海の言葉に、神妙な面持ちで顔を伏せた。
『……歩夢……』
さっき、玄関先でそう弱々しく僕の名前を呼んだ尚子の顔に、心なしか徐々に戻ってきているような気がする。
良くも悪くも尚子は、不思議でしなやかな野中七海の言葉に、少なからず突き動かされている様だった。