孤高の魚
「……やれやれ」
そう一人呟いて、再び携帯をテーブルに置いてから、僕は久しぶりに、食器棚の奥からインスタントコーヒーの瓶を取り出した。
歩太がいた頃、このキッチンには、いつもコーヒーの匂いが漂っていた。
歩太はソファーに寝そべり、コーヒーを片手によく本を読んでいた。
僕は、歩太のその姿がとても好きだったし、そこに漂うコーヒーの香りも好きだった。
……今まで随分長い間、忘れていたような気がするけれど。
僕はお湯を沸かし、僕専用のマグカップにインスタントコーヒーを入れる。
本当なら、歩太専用のコーヒーメーカーがあるのだけれど、僕には使い方がわからない。
あの頃、フルに実力を発揮していたコーヒーメーカーは、今や、歩太の不在でホコリを被っている。