孤高の魚
インスタントコーヒーは、酸味の強い味がした。
そうして、あの頃のような香ばしい香りもしない。
あまり美味しくはないコーヒーを啜りながら、僕はまたあの冷蔵庫に貼り付けた手紙を見つめてみる。
静かに、けれどもやっぱりどこか特別な雰囲気でそこにあるブルー。
……野中七海。
僕はまた、その名前を頭の中で読み上げてみる。
幾度目かの彼女の名前は、僕には何だか少し、特別な響きの様に感じられた。
……野中七海。
彼女がもし、歩太の不在を知ってしまったのなら、あのコーヒーメーカーのようになってしまうのだろうか。
……そうかもしれないな。
と、思う。
けれども僕には、やっぱりどうする事もできない。
野中七海の事は僕は知らないし、コーヒーメーカーの使い方も……僕にはわからないのだから。