孤高の魚
僕は一人、煙草をふかしながら、何か考込んでみようとしたけれど、あまりにも沢山の出来事が頭を行き来してしまって、どうにもうまくいかなかった。
「……なんだか疲れたな……」
煙草の煙と一緒にそんな言葉をぽつりと吐き、後はただ宙を見つめる。
………
しばらくの間そうしてから、階段で煙草をもみ消し、部屋へ戻った僕は携帯を開きながらふと考えた。
そう言えば野中七海は携帯を持っていないのだろうか。
……持っていないのだろう。
なんとなくそんな気がした。
携帯の小さな画面を見詰めながら、機械的に細かいボタンを操る野中七海の姿は、僕には何だか想像できない。
……しかし。
こんな時にも僕は、野中七海の事ばかり考えているのだから、全く始末が悪い。
まるで重々しい現実から逃げる様に、僕は野中七海の美しい事を考えているのだ。