孤高の魚
「あっ……尚子が君に、よろしくねって」
僕は咄嗟に、尚子が帰りがけに言っていた事を言い出した。
何か、きっかけが欲しい。
そんな姑息な気持ちだった。
「多分これからも、遊びに来ると思うから、アイツ……」
「………」
水流の音で、僕の声がうまく届かなかったのだろうか。
野中七海の反応がない。
ジャーー……
ジャーー……
ダダダダ……
シャワーになった水流がシンクで音を立てる。
………
何か……
何か言ってはくれないのだろうか。
この際、
「最低ね」
でも何でもいい。
もし彼女に何かしらの非難を受ければ、僕はスッキリとする事ができるかもしれない。
そんなつまらない僕の希望は、彼女の答えのないまま、水流とともに流れて行ってしまう様だった。