孤高の魚



……ああ、だからか。
と、僕は思う。

彼女の確固たる強さは、間違いなくここにはいない歩太へと向かう彼女の想いそのものなのだ、と。


だから野中七海は、何も言わない。

尚子との事も、尚子の妊娠の事も、歩太に無関係である限り、それは野中七海にもまるで無関係な出来事なのだ。


……当然だろう。

当の僕だって、尚子に何も言ってやれなかったのだ。
そんな僕が彼女に何か言葉を求めるなんて、それはあまりにも烏滸ましい。


ならば僕もまた、歩太の同居人であった事以外には、彼女とは全くの無関係だという事になる。

彼女と僕との間にはせめて、「友人」という関係性すら出来上がる事はないのだろうか。
もちろん、単なる「同居人」でもいい。



< 167 / 498 >

この作品をシェア

pagetop