孤高の魚
『 歩夢、ナナミちゃんいるか~?』
受話器の奥から僕の耳に飛び込んできたのは、さくらの常連、工藤さんの、どこか間の抜けた声。
それにはいつも聞き慣れているはずなのに、今の僕には、まるで異空間から飛び込んできた異物のようにも響いてくる。
『おい~? 歩夢~?』
その声に……
何故か返事ができない。
声を出そうとすると、ギュウ、と喉が強く締め付けられる。
『おい? 歩夢?』
返事をしない僕に、工藤さんの声がもう一度呼び掛ける。
「……ズ……はい」
絞り出すようにして、僕はやっとの思いでそれに返事をした。
その声は、自分でも分かるほど鼻声だ。
『なんだ? お前。風邪か?』
「……ズッ……や……」
『はははっ、なんだあ? もしかして泣いてんのかあ?』
そう言って工藤さんが笑う。