孤高の魚

「うん、だけどな歩夢、悪い事は言わない。あの子は、やめとけ」


そう言った工藤さんの口調が強くて、僕は思わずグラスを持つ手を止めてしまった。

ワイングラスを傾ける工藤さんの顔を、まじまじと見る。


「お前の手には、おえないだろ」


そう続けてから、工藤さんはジッと僕の顔を見る。
さっきまでニヤリとしていた工藤さんの顔付きとは違って、今度は嫌に真剣だ。

工藤さんはグラスに残っていた白ワインをグイッと一気に飲み干して、店員におかわりを注文する。


………


……



二人の間に漂う沈黙。
何とも言えない緊張感が、足元から徐々に僕を襲ってきた。


……工藤さんは何もかもお見通しなのかもしれない。

僕は何かを誤魔化すように、味のわからないビールを啜った。


「でないとお前も、歩太みたいになっちまうぞ」


そう言う工藤さんの口調は、変わらずに強い。