孤高の魚
………
それからしばらく黙って、僕と工藤さんはテーブルに並べられた料理を静かに口に運んだ。
どれもこれも、よく味がわからない。
辛味と酸味は舌に残るのに、微妙な味わいが感じられないのだ。
やっぱり、僕はどこか麻痺している。
野中七海を傷付けてしまった事で、自分がこんなにダメージを受けるとは思わなかった。
………
「ところで歩夢、お前、歩太はまだ生きてると思うか?」
パンをかじりながら、工藤さんが突然そんな質問を投げ掛けてくるので、僕はあまりの驚きで口からビールを吹きそうになった。
慌てる僕を目の前に、工藤さんはいたって冷静な顔付きだ。
「お前だって薄々は勘づいてるだろう?」
……勘づいてる?
何を?
………
『歩太は戻ってこない』
さっき、そう彼女に言ったはずの僕の言葉が……蘇る。