孤高の魚



………


それからしばらく黙って、僕と工藤さんはテーブルに並べられた料理を静かに口に運んだ。

どれもこれも、よく味がわからない。
辛味と酸味は舌に残るのに、微妙な味わいが感じられないのだ。

やっぱり、僕はどこか麻痺している。

野中七海を傷付けてしまった事で、自分がこんなにダメージを受けるとは思わなかった。


………


「ところで歩夢、お前、歩太はまだ生きてると思うか?」


パンをかじりながら、工藤さんが突然そんな質問を投げ掛けてくるので、僕はあまりの驚きで口からビールを吹きそうになった。

慌てる僕を目の前に、工藤さんはいたって冷静な顔付きだ。


「お前だって薄々は勘づいてるだろう?」


……勘づいてる?
何を?


………


『歩太は戻ってこない』

さっき、そう彼女に言ったはずの僕の言葉が……蘇る。


< 198 / 498 >

この作品をシェア

pagetop