孤高の魚
「なら、お前は、歩太が戻って来る事を、ナナミちゃんの前では絶対に否定しちゃいけない。
わかるか? あの子の父親にでもなったつもりになれ。
現に俺は、あの子の前ではいつもそうしている」
工藤さんの声は相変わらず強くて、どこか生き生きとさえしていた。
そのままの声で、工藤さんは決定的な結論を出す。
「俺は正直、歩太はもう生きてはいないんじゃないかと思う」
………
「えっ……いや、まさか」
僕は、慌ててその工藤さんの言葉を否定した。
ここで肯定してしまったら、なんだかそれが現実になってしまいそうだった。
「いや、もちろん、俺にだって真偽はわからない。俺が殺したってんなら別だけどな。
……まあ、それならそれでいい。死んだ方は、死んで終わり。そうだろ?
だけど残された方はどうだ? ナナミちゃんはどうなる?」
「………」