孤高の魚
「だから歩夢、お前はナナミちゃんと一緒に歩太を探してやれ。文句一つ言わずに。
いいか? 否定するなよ。
それが、お前にできるたった一つの事だ」
「………」
「うむ……これだけは断言してやってもいいぞ。
俺が思うに、歩太は見つからない。見つかるのは、歩太が生きていた軌跡だけだ。
だけどな、それでいい」
工藤さんはそう一息置くと、空になった僕のグラスに目をやり、店員を呼んだ。
今度は僕も、その店員に工藤さんと同じグラスワインを注文した。
「ナナミちゃんには、それが幸せだ。
現実がいつも正しいとは限らないし、それとは逆に、空想がいつも馬鹿馬鹿しいとは限らないだろう。
確かに今、ナナミちゃんは空想の中に自分の居場所を求めている。だけどそれが、全て不幸な事だとは限らない」
………
……カタン
注文したグラスワインが、僕の目の前に運ばれてきた。
口を付けると、酸味の強い若い葡萄の香りが漂った。
「……押し付けるなよ。否定もするな。あの子の幸せを肯定してやれ。
もちろん、俺もそうしてやるつもりだ」