孤高の魚
………
「殺すつもりなのね」
野中七海の強く鋭い声が、僕の背中を突いた。
……バタン。
僕の手をすり抜けて、冷蔵庫の重い扉が閉まる。
冷えたビールに伸ばそうとした僕の指を、冷蔵庫の冷気だけが微かにかすった。
殺す?
誰が?
誰を?
恐る恐る振り返ると、野中七海は真っ直ぐに僕を見据えている。
彼女の小さな唇が、微かに震えていた。
頬も、緊張しているのか随分強張っている様だ。
そんな彼女の表情は、いつもと違ってどこか違和感がある。
どこがどう、とはうまく表せないのだけれど、彼女を取り巻く空気がいつもとまるで違う。
……気のせいだろうか。
『関係のない事だわ』
あの日。
そう言って僕を突き放した時とはまた違う、彼女の強い怒りに近い感情を、その時僕はハッキリと肌で感じていた。
「アユの赤ちゃんを、殺すつもりなのね」
そういい放つ彼女の視点は、僕を強く捉えたまま動かない。