孤高の魚
「……落ち着いた?」
もしかしたら今の野中七海ならば、僕の声が届くかもしれない。
そんな期待を抱きながら、僕は彼女にそう問いかけてみる。
けれどもそれには、しばらく反応はない……
それでも僕が立ったまま彼女の返事を待っていると、彼女の視線がふいにテーブルから離れた。
鍋から漂う湯気を、野中七海の視線がゆっくりとなぞる。
「……もう、疲れたの」
その時、ハッキリとした彼女の声が、僕には確かに聞き取れた。
幾分落ち着いた、彼女らしい声だ。
「……アユ……七海ね、もう、疲れたの」