孤高の魚
「うん……そうだね。わかってるよ」
気が付けば僕は、彼女にそんな言葉を投げ掛けていた。
まるで、僕が歩太になってしまったみたいに。
……『アユニ』
彼女にそう呼ばれる度に、僕はいつしか歩太の影を、誰よりも濃く背負ってきたのだから。
「本当?」
野中七海の顔は、僕の声に反応して綻んだ。
けれども視線は相変わらず湯気を捉えたまま、それは決して、僕の方へとは向けられない。
「ああ。……わかっている」
僕はもう一度そう口にした時、意識的に歩太の口調を真似てみたかもしれない。
言葉を噛む様に。
丁寧に。
何かを説く時の様に。
「それなら、七海は、安心してここに居られるわ。
いつか、いつかは……きっと会えるのね。
影ではないアユに」