孤高の魚



………


……



二人の言葉がなければ、夜はなんて静かで。
ファンヒーターの音と、時折うなる冷蔵庫のコンプレッサーの音がやけに響いた。


ジュウ……

自分の煙草の燃える音さえ、耳に届いてくる。


………


「だからわたしは、ずっとアユに会えなかったの。
会いたくて会いたくて、何度そこから抜け出そうとしたかわからないけれど、すぐにセンセイに捕まってしまった。
……パパは許してくれなかったのよ。
……きっと、今だって……」


ゆっくりと煙を吐きながら、沈黙を破る彼女の表情はどこか虚ろだ。
……掴み所がない。



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