孤高の魚
彼女が正常だろうが異常だろうが。
もし、僕の想像を絶するほどの、背負いきれない様な過去が彼女にあったにしても、今、彼女を目の前にして、それを誓わないでいる訳を僕は持たない。
………
「……ありがとう、アユニ」
……ああ、ほら。
何故ならば彼女は、そうやって愛情に満ちた眼差しで僕を見る。
その愛情が、例え友愛でしかないとしても、それでも今は構わない。
……『アユニ』
ここに歩太がいないのであれば、『アユニ』は僕だけのものだ。
僕だけに与えられた特別な名前なのだ。
気落ちなどするものか。
現実はいつだって、常に僕の目の前にだけある。
………
僕は短くなった煙草を、用意しておいた灰皿の上で揉み消した。
それから、そのまま彼女の前へと差し出す。